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フュージョンエネルギー普及の鍵「高温超伝導マグネット」基幹材料をフジクラから追加調達、戦略物資のサプライチェーン構築へ

  • 執筆者の写真: naho yoshimura
    naho yoshimura
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分

日本が得意とする素材開発と機器開発の両輪で世界一の高温超伝導サプライチェーンを目指す

 

Helical Fusionは、レアアース系高温超伝導線材の開発における世界のトップランナーである株式会社フジクラ(以下「フジクラ」)から、核融合炉の中でも重要機能を担う「高温超伝導マグネット」の基幹材料である「高温超伝導テープ線材」の追加調達について合意しました。これにより、世界的に技術開発競争が激化するフュージョンエネルギーの最重要分野である超伝導マグネット開発において、Helical Fusionによる製造・実証を推進し、日本企業による素材開発から装置製作までのサプライチェーン強化に貢献します。

Helical Fusionが開発するヘリカル型核融合炉の中心部では、螺旋状の高温超伝導マグネットでプラズマを閉じ込める。高温超伝導テープ線材を束ねて作る、曲げやすく高性能なマグネットを独自に開発している。
Helical Fusionが開発するヘリカル型核融合炉の中心部では、螺旋状の高温超伝導マグネットでプラズマを閉じ込める。高温超伝導テープ線材を束ねて作る、曲げやすく高性能なマグネットを独自に開発している。

フュージョンエネルギー開発の意義

世界の人口は2050年までに約17億人増加すると予測[1]され、生成AIの普及も背景とした世界的な電力需要の急増に対し、既存発電方法のみで応えることは厳しい見通しです。フュージョンエネルギーは、太陽の輝きと同じ原理を使ったクリーンで効率性の高い発電方法であり、海水等から豊富に採取可能な燃料を用いることからも、世界的な課題を抜本的に解決する技術として期待されています。核融合プラント建設および電力市場は2050年までに世界で年間5500億ドル規模にまで成長するとの試算[2]もあり、今後自動車産業のように日本が世界をリードする巨大産業を創出できる可能性がある一方、国際的な開発競争も激化しています。Helical Fusionは世界最速での定常核融合炉を2034年までに実現し、世界中で商用化することで、持続可能なエネルギー源の社会実装を目指しています。

[1] 国際エネルギー機関(IEA)年次報告書 「2023年版世界エネルギー見通し」(World Energy Outlook 2023)

[2] FusionX/Helixos report Global Fusion Market Analysis: Electricity, Supply Chain & Construction (https://fusionxinvest.com/data-analysis/analysis/)


高温超伝導マグネット開発の重要性

Helical Fusionが開発する「ヘリカル型核融合炉」は、岐阜県にある世界有数の核融合の国立専門研究機関「核融合科学研究所」(以下、「NIFS」)や前身の京都大学や名古屋大学、広島大学など70年以上の研究の知見を引き継いでいます。プラズマ研究・炉設計と工学研究成果の観点から、既に実用化に向けたハードルをほとんどクリアしており、NIFSが保有する世界最大級の実験装置「大型ヘリカル装置(LHD)」は、2004年には世界に先駆けて3,000秒以上の連続運転に成功しています。残された数少ないハードルの1つが、核融合反応が起きる「プラズマ」を効率的に閉じ込める強力な磁場を生み出す「高温超伝導マグネット」の開発です。高温超伝導マグネットは、従来型の超伝導(低温超伝導)に比べて高温域での運転が可能で高磁場を生み出せる次世代型の素材(高温超伝導テープ線材)を活用するマグネットであり、より小型で効率的な核融合炉づくりを可能にし、商用化を大きく近づける技術です。実用化できれば、フュージョンだけでなく、宇宙・航空分野や医療用MRI、高効率な送電ケーブルなど幅広い応用も期待されます。開発の意義が評価され、2023年にはHelical Fusionの開発プログラムが文科省SBIR Phase3補助金にも採択されました。


Helical Fusionが独自開発する高温超伝導マグネットのサンプル
Helical Fusionが独自開発する高温超伝導マグネットのサンプル

■Helical Fusionによる超伝導ケーブルの開発

ヘリカル型核融合炉は定常運転が可能であり商業炉に適したアプローチとされている一方、ヘリカル型(三次元螺旋構造)の超伝導マグネット製作が課題とされてきました。課題克服には、これまでにない曲げやすさと製作性を備えたケーブル状の高温超伝導マグネットの開発が急務です。そこで、Helical Fusionでは高温超伝導テープ線材を重ねて柔軟に曲がる管等で束ねる独自の構造を考案し、曲げやすく製作性の高い世界的にも先進的な超伝導ケーブルの開発に挑んでいます。この超伝導ケーブルで使用される基幹材料が、「高温超伝導テープ線材」であり、今後の実証ひいては商用炉展開に向けて、サプライチェーン確保がフュージョンエネルギー普及の鍵を握ります。



■高温超伝導テープ線材のサプライチェーン

今後のフュージョンエネルギーの実証及び商業化に向けては、基幹材料である高温超伝導テープ線材のサプライチェーン構築が重要な鍵を握ります。これまで日本企業は超伝導テープ線材開発のグローバルリーダーとして存在感を発揮してきました。今後、順調な量産体制の構築により価格や供給量の安定が実現すれば、核融合炉の建設コストの最適化に直結すると考えられますが、そのためには継続的な需要が必要です。Helical Fusionは、合計数万km規模の調達を計画しており、今後もフジクラをはじめとする超伝導線材メーカーと密に連携してサプライチェーン全体の構築にも貢献していきます。


フジクラが開発するレアアース系高温超電導線材
フジクラが開発するレアアース系高温超電導線材

■高温超伝導マグネット開発のポイント

開発にあたっては、前例のない設計を柔軟に調整しつつスピーディーに検証するための高度な知見と、機動的な技術開発・検証体制が求められます。Helical Fusionは、2024年3月より、同分野で世界的トップレベルの実験施設および専門人材を擁するNIFSと提携、産学官連携研究部門「HF共同研究グループ」を軸に、高温超伝導マグネットの開発を進めています。更に、高度な加工技術を持つ日本のものづくり企業、そしてフジクラのように高性能な材料の開発知見・量産体制を誇るサプライヤー企業と強力な連携体制を構築することが重要であり、今回の調達合意も開発への強力な追い風となります。


2024年に実施した高温超伝導マグネット試験の様子。-253度の極低温かつ8テスラの強磁場環境において、電気抵抗のない超伝導状態で19kAの通電試験に成功した。(岐阜県にあるNIFS保有の実験施設にて)
2024年に実施した高温超伝導マグネット試験の様子。-253度の極低温かつ8テスラの強磁場環境において、電気抵抗のない超伝導状態で19kAの通電試験に成功した。(岐阜県にあるNIFS保有の実験施設にて)

■今後の見通し

Helical Fusionでは、2034年に正味発電が可能な発電初号機の定常運転を目指し、2030年までに全ての要素技術を合わせた統合実証を行う予定です。統合実証に向け、高温超伝導マグネットの開発・試験を今後数年間で完了させる計画であり、直近では円形型マグネット実証実験を今年中に実施予定です。同試験では、世界的な開発競争においてフロントランナーとしてのポジションを示す大電流での実証結果実現を目指しています。

 

■フジクラについて

1885年の創業以来、電線やケーブルの研究・開発・製造で培ってきた“つなぐ”テクノロジー™を通じ、光ファイバケーブルほか光製品を中心とする情報通信事業、高精細,高密度,多機能な電子部品を扱うエレクトロニクス事業、ワイヤハーネスを主力とする自動車事業などの分野で革新的技術を生み出し、社会課題の解消に貢献するグローバル企業です。30年以上に渡りレアアース系高温超電導線材の研究開発を続ける業界トップランナーとして、核融合炉開発を進める国内外の研究機関やスタートアップ企業に高温超電導線材を提供しています。また、政府の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を踏まえて設立された「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」では理事企業として参画しています。

🔗株式会社フジクラ https://www.fujikura.co.jp/

 

 

以上


 
 
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